<金口木舌>怒りの声、祈りの声


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 今年の「5・15」は物足りなかった、と今にして思う。平和行進がなかった。大会がなかった。節目の日なのに、すっと通り過ぎてしまった。それもこれも、新型コロナウイルスのせいである

▼大会には毎年、足を運ぶ。壇上にいる政党や団体代表の発言だけでなく、参加者の声を聞くためである。つぶやきやため息にも耳を傾ける。会場の怒りはどこに向いているのかが分かる
▼ひょんなことで怒りの声を聞いた。検察官の定年延長を認める検察庁法改正案を審議する15日午後の衆院内閣委員会のネット中継である。法案に反対し、国会の外に集まった人々の抗議の声が、委員会室にも響いた
▼与野党諸氏、森雅子法相はこの声を聞いたはずだ。首相官邸にいた安倍晋三首相は何を感じただろうか。政府与党は今国会での成立を見送った。怒りの声に抗しきれなかったのだろう。法案に反対するネットの声も大きかった
▼安保反対の声が国会周辺に渦巻いた1960年。安倍首相の祖父、岸信介首相は「銀座や後楽園球場はいつも通りだ。私には声なき声が聞こえる」と解釈し、安保改定を押し通した。60年後の今回は、そうはいかなかった
▼もうすぐ6月、慰霊の月が巡ってくる。例年のような戦没者追悼式は開けないが、沖縄戦犠牲者を悼み、平和を求める祈りの声を発信したい。世論を動かす力となるように。