<金口木舌>赤い人形


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 全身が赤く、いたずら好きで、人懐っこい「木の精」と言えばキジムナーだが、大宜味村では「ぶながや」と呼ばれる。村内では森や川、集落で目撃したという証言が数々あり、民話などに残されている

▼村役場の前のガジュマルの木の間に2体の子どもの人形がある。職員に聞くと、人形は「ぶながや」をイメージしたものだ
▼人形を10年ほど前に設置したのは平良森雄さん(85)。言い伝えに基づいて、自宅にあった人形の全身を真っ赤に塗り、服を着せた
▼「ぶながや」が見下ろす先にあるのは大宜味村の旧庁舎。大正14(1925)年に建設された県内初の本格的な鉄筋コンクリートの公共建築物だ。戦火を免れた旧庁舎は2017年に国の重要文化財に指定された
▼旧庁舎の白い壁の前に立ち、ぶながやとガジュマルを眺めると、大正時代にいるような錯覚を覚える。村によると、ぶながやはかつて沖縄のほとんどの村々で暮らしていたが、激しい戦禍と基地被害、戦後復興の近代化に耐えきれず、安住の地を求めて自然豊かな大宜味にしか生息しなくなった「希少種」なのだという
▼「ぶながやの里」を宣言した大宜味村は「私たち村民はこれまで、戦争につながる一切を認めずに暮らしてきた」と胸を張る。基地被害のない平和で自然豊かな沖縄がいつか実現すれば、ぶながやもまた各地に戻ってくるかもしれない。