<金口木舌>文字の重さ


社会
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 独自の仮名入力方式「親指シフト」を考案した富士通が来年5月までに関連商品の販売を終えるという小さな記事が本紙に載った。若い世代の中には「親指シフトって、何」という人もいるだろう

▼効率的に日本語を入力できると評判だったが、ローマ字入力が主流を占めた。これも時代の趨勢(すうせい)か。「親指シフト」の愛用者は困ったはずだ。ローマ字入力のキーボードを前にあたふたしている人を見て笑ったのは20年前のこと
▼罰が当たったか。今になってスマホにあたふたしている。メールを送ろうにも文字が打てない。文字盤の上で指を滑らせて文章をつづる「フリック入力」が苦手。時代遅れと言われそうだ
▼ただ、便利さに任せて指が滑り過ぎては禍根を残すこともある。SNSの世界には誹謗(ひぼう)中傷があふれている。最近も悲しい出来事が起きた。もちろんスマホではなく、使う側のモラルの問題である
▼新型コロナウイルスが時代を超えた価値を呼び覚ました。4月末、JR東神奈川駅がチョークで書き込む伝言板を設置した。思いや希望を共有することで、閉塞感を和らげたいという駅員の発想は共感を呼んだ
▼黒板に文字を書くとチョークの粉が手に付いた。小学生の頃を思い出す。文字を書けば跡が手に残る。字を書くことの重みを自然と学んだ。パソコンやスマホにはない感覚が、コロナ禍の中でよみがえる。