<金口木舌>社会を変える、トイレから


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 今帰仁村歴史文化センター内に「トイレ・アートギャラリー」という珍しい名称のトイレがある。絵画が展示され画廊のような雰囲気が漂う。LGBTなど性的少数者の人がトイレ利用に悩んでいることを知った館長の発案で開設した

▼当初、「誰でも入れるトイレ」という名称を掲げようとした。しかし、男女別のトイレが近くにあり、性的少数者の人たちが使うには周囲の視線が気になるのではと館長は考えた。絵画の観賞が目的なら利用する人も多いだろうと発想を変え、トイレとギャラリーを兼ねた
▼トイレの利用に困難を感じている人は少なくない。本紙が3年ほど前に当事者を招き、トイレの問題をテーマに開いた座談会では「一番緊張する場所」「ゆっくり行けたことはない」と悲痛な声が上がった
▼性同一性障がいの人は学生時代、心の性別に従って女性用を利用したくても見た目は男性のため、帰宅するまで我慢した日もあったという。「水を飲まないようにしている」という切実な声もあった
▼厚生労働省が企業を対象に実施した調査では、トランスジェンダーに配慮したトイレを設置しているとの回答は約25%にとどまった。職場の理解は進んでいない
▼排せつの悩みは心身の健康に影響を及ぼし、尊厳を傷つけることもある。トイレの問題から性の多様性を前提にした社会の在り方を考える。