<金口木舌>一音に懸けて


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 高校野球の春の選抜選出校を招いて行われた甲子園での交流試合が閉幕した。アルプス席は閑散としていたが、ネット上では熱い応援が展開された

▼開幕戦で花咲徳栄高は吹奏楽部が埼玉県の学校からリモートでエールを送った。部員約90人が重厚な音でもり立て、動画サイト「ユーチューブ」で生配信した
▼テレビ観戦しながら配信を聞いた。サンバ・デ・ジャネイロ、アフリカン・シンフォニーといったナンバーが響いた。回が進むごとに演奏に力がこもる。発表の場を失った吹奏楽部員の思いが伝わってきた
▼沖縄県吹奏楽連盟が22日に予定していたコンテストの高校の部が中止となった。全国コンクールが取りやめとなり、発表の場を確保する独自大会だった。これを支えに練習を継続した3年生も多い
▼連盟は発表文で「大変心苦しい」と思いやり、吹奏楽で培った力をそれぞれの進路で発揮してほしい、吹奏楽を引き続き愛好してほしいとつづった。課題に向き合い、つらい練習を乗り越えた体験を忘れないでと。指導者らの心からの願いだろう
▼「栄冠は君に輝く」は「一球に一打に賭けて」と歌う。音楽なら「一音に賭けて」か。極めた一音が独奏で響き、合奏のハーモニーを構成して鳴る。高校生活で知った奏でる喜びは一生の宝物だ。今は無理かもしれない。いつか立ち上がり、再び音の彩りを感じてほしい。