<金口木舌>危機回避の道筋は


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 作家はとりわけ言葉を大切にする。歌舞伎や落語の作者でもあった宇野信夫さんは耳障りな言葉は使わないのが文学者の務めと誓った。挙げたのは「ぴったり」を「ぴったし」と言うのと「食べれる」など「ら」を省略した「ら抜き」

▼黙阿弥は「どじを踏む」を「どじを組む」と表現していたという。今は使わない。なまじ昔の言葉を使うと、死語どころか間違いと思われると宇野さんは嘆いた
▼無知の側で似た経験がある。大正生まれの祖母は幼子らのいじらしい話を見聞きすると「懐かしくなる」と言った。自分の苦労と重なると思ったら「なちかさん」は「悲しい」の意。悲しいほどいとおしいの意味合いだった
▼しまくとぅばを「主に」、あるいは「共通語と同じくらい」使うのは県民の3割弱。最新の調査結果だ。多い気もしたが7年前の最初の調査から減少した。聞ける人も減った
▼ウェブを用いた新たな取り組みも。県立博物館・美術館は収集した民話をアニメ化し公開。しまくとぅば普及センターのしまくとぅばナビでは言葉を音声で聞くことができる
▼前掲の宇野さんの指摘は40年前。ぴったしはぴったりを駆逐せず、ら抜きも一定の歯止めがかかっている。警鐘で意識が高まったか。しまくとぅばは約8割の人が生活に必要と考えている。関心の高いうちに消滅の回避にどう道筋を付けるか。正念場である。