<金口木舌>温存される不平等


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 「法廷は理由は分からないが完全無罪を言い渡した。その意味で誤審だった」。1970年9月18日に糸満町(現在の糸満市)であった女性れき殺事件について米国民政府法務局は、高等弁務官宛ての機密報告書で「誤審」と判断した

▼事件は夜間、酒に酔った米兵が速度超過で運転する車両が歩いていた54歳の女性をひき殺した。米軍法会議は米兵を無罪としたが、具体的な理由は明かさなかった。米国民政府は反発が全県に広がったことを受け、報告書をまとめたとみられる
▼しかし「誤審」の判断は公表されなかった。「判決への批判を高めるだけで生産的でない」というのが理由だ。2012年に報道されるまで米国は県民を欺いた
▼不可解な判決といえば昨年、性犯罪を巡る無罪判決が相次いだ。性暴力撲滅を訴えるフラワーデモが全国に広がった。刑法の性犯罪規定の見直しを議論する法務省の検討会が始まっている
▼そのさなかにも事件は続く。さいたま市のカラオケ店で酒に酔った女性に乱暴したとして、準強制性交の疑いで逮捕された男性消防士4人が8月、不起訴になった
▼50年前の事件は70年12月のコザ騒動の契機になった。復帰を経て沖縄の状況はどれだけ改善されたか。沖縄の人々にも女性にも憲法によって人権が保障されている。だが不平等な社会を変えなければ憲法理念は実現できない。