<金口木舌>師走、立ち止まる


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 以前ベビーカーを押している人とすれ違う際、ぶつからないように方向を変えた。近づいたところでベビーカーが急に進路を変え、再び向かい合う状態になった。こちらの動きは見えていただろうと思い、不思議だった

▼先日、新調したベビーカーを押した。道路の状態によってはハンドルがとられ、思うようにまっすぐ押せなかった。「もしかしたら、あの時の人も」と思い出した
▼当方の妻は脳腫瘍と闘病中。2度の手術で腫瘍を取り除いた後、片方の聴力を失い気圧の変化に敏感な体質になった。天候次第でふらつきがあり、まっすぐ歩けない。無意識に行き交う車の方向へ近づくこともあり、声を掛けて気付かせる
▼先月29日、東京都内で視覚障がいのある60代男性がホームから転落し、電車にはねられて亡くなった。転落防止のホームドアは設置されていたが、運用開始前でドアは開いたままだった。男性は白杖(はくじょう)を持って1人で歩いていた
▼翌30日、沖縄県内の観光業者向けのバリアフリーセミナーが国際通りなどであった。参加者はアイマスク姿で点字ブロックが途絶える道や、車いすが1台しか乗れないエレベーターに直面し、困りごとを実感した
▼当事者以外には気付きにくい困難が、足元のあちこちにある。師走の今、何かとせわしいが、立ち止まり声を掛けてみよう。困っている人にできることがある。