<金口木舌>地域を興すアート


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 9月に火災で内部が全焼したギャラリー「PIN―UP(ピンナップ)」への支援が広がっている。写真家や詩人ら、幅広い分野で支援を目的とした展示会などが取り組まれている

▼ギャラリーがあるのは宜野湾市で「新町」と呼ばれた旧真栄原社交街の一角だ。米軍普天間飛行場の建設に伴い、終戦直後から飲食店が並んだ。2009年には100店を超える違法風俗店があった
▼借金返済のために売春させられていた女性が保護され、暴力団による組織的な「人身売買」の存在も疑われた。市や宜野湾署の「浄化」作戦で違法店舗は一掃され、ここ10年はゴーストタウン状態だ
▼新町に近い宜野湾市嘉数で育った許田盛哉さんがピンナップを開いたのは17年。この地域を「アートで盛り上げたい」との思いからだ。著名な写真家を含め多分野の作家が集う場になった
▼火災後、すぐに寄付を募るクラウドファンディングが動き出した。支援者への返礼品は写真集や詩集、造形作品など多彩だ。許田さんは「クラウドファンディングがアートマーケットのようだ」と反響に驚く
▼女性を虐げる犯罪の一掃は社会にとって不可欠だ。一方で戦後の負の歴史を背負う地域もそこで育った人々にとっては古里だ。ピンナップは芸術が人をつなげ、地域を再生する可能性を示した。地域を思う人々の行動が実を結ぶことを願う。