<金口木舌>理不尽な現実


社会
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 「何も変わっていないし、何も終わっていない。理不尽な現実はずっと続いている」。東京電力福島第1原発事故で被災した農家の樽川(たるかわ)和也さんの苦悩を描くドキュメンタリー映画「大地を受け継ぐ」(2015年制作)。監督の井上淳一さんが本紙にインタビューで訴えた

▼震災10年の「節目」に全国各地で再上映される中、3月に県内で初上映された。樽川さんは福島第1原発事故の直後、農業団体から野菜の出荷停止を命じられ、父親は自死した
▼福島の原発事故を巡り、福島県と隣接する3県の住民らが国と東電に原状回復と損害賠償を求め「生業(なりわい)訴訟」を起こしている。昨年9月の仙台高裁は事故を予見して回避し得たと判断し、国と東電の責任を認めた
▼それでも住民の苦悩は省みられない。杉本達治福井県知事が運転開始から40年を超えた関西電力の原発計3基の再稼働に同意した。運転期間を原則40年とするルールは破綻した。“老朽原発”の延命に懸念が残る
▼祖先から土地を受け継ぎ、野菜を育てる農家、幸せを奪われた住民たち。それぞれの苦悩を1日でも早く終わらせなければならない。為政者にその力はあるのだろうか
▼井上監督は今回、手を加えず、6年前の映画を再上映した。現実が「何も変わっていない」からだ。農家の涙と汗がしみ込む大地に立ち、声を聞くこと。それが理不尽を止める第一歩となる。