<金口木舌>虹色の絵本が描く社会


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 日本で読み継がれている海外絵本に米国の絵本作家エリック・カールさんの「パパ、お月さまとって!」がある。月を取ってと娘にせがまれた父親が長いはしごを調達する。そこから始まるのは奇想天外な出来事

▼カールさんといえば、「はらぺこあおむし」で知られる。日本語版をはじめ70カ国以上で翻訳された。生き物を描いた絵本を得意とし、70冊以上の著書を送り出した。虹のような鮮明な色使いが真骨頂だ
▼少年時代を第2次世界大戦下のドイツで過ごし、空爆を避けるため灰色や茶色に塗られた家で育った。当時を「色のない、悲しい生活。私の作品の色彩は、それに対する反動からなのかもしれません」と語っていた
▼カールさんが91歳で亡くなった。華やかで多彩な色が印象に残るのは、今の時代がモノクロな空気に覆われているように感じるからだろうか。新型コロナウイルスの感染拡大は日本人の「同調圧力」をあらわにした
▼感染者への差別や中傷。コロナ禍で不満をため込んだ人が、他人のすきにつけ込みSNSで激しく批判する。差別の解消を求める障がい者や女性への過度なバッシング―。その息苦しさを色に例えるとモノトーン
▼カールさんが描いたような多様な価値観を認め合う社会とはほど遠い。カールさんは70冊以上の著書がある。多彩な色使いは今の時代だからより輝いて見える。