<金口木舌>われわれは大丈夫か


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 香港に一度だけ行ったことがある。1998年7月だから、英国から中国に香港が返還されて、ちょうど1年たったころだ。料理がうまくて、夜景がきれいだったことを覚えている

▼ごちゃごちゃした街に底知れぬパワーを感じた。「返還から1年たった香港。650万もの人口がひしめき、街は今も活気とけん騒にあふれている」と記事を書いた。それから23年。こんなことになるとは
▼返還時に約束したはずの「一国二制度」は雲散霧消した。民主活動家が次々と逮捕され、言論・集会の自由は抑え込まれた。そしてリンゴ日報の発刊停止。中国政府の暴政にあぜんとする
▼ところで日本はどうか。「国境なき記者団」が今年4月に発表した世界各国の報道自由度ランキングで、日本は67位。前年より順位を一つ下げた。「菅政権となってもメディアを巡る状況は改善していない」との指摘だ
▼国民を監視し思想・良心の自由を奪うような法律が国会で成立した。野党の抵抗は弱かった。私たちは危機感を持っているだろうか。香港の現状に驚いてばかりではいけない
▼読者の支援に対する感謝を記したリンゴ日報のウェブページは更新を止めた。100万部を刷った最終号を求めて読者の長い列ができたという。愛読紙を失った悲しさと言論封殺への憤りであろう。われわれは大丈夫か。失ってからでは遅い。