<金口木舌>「よき隣人」の素顔


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 ある一家の隣に引っ越してきた男性は紳士的で、贈り物をするなど親切に振る舞う。一家は男性と交流を深めるが、周囲で不可解な事件が起こり始める

▼雫井脩介さんの小説「火の粉」は、一見すると優しそうな隣人が平穏な日常を狂わせる物語。身近な人の本性が見えない状況に底知れぬ恐怖を感じる
▼いつも県民の隣にいながら、本性を隠し続けるのは米軍も同じ。米軍のSNSには連日、草刈りやごみ拾いなど地域のボランティアに参加する様子が投稿される。写真に写る米兵は汗を流し笑顔を輝かせる。その姿はまさに「よき隣人」
▼米軍ヘリが渡名喜沖にコンテナを落下させた後も、SNSに地域貢献をPRする投稿が並んだ。一歩間違えれば大惨事となった事態にも謝罪や説明はない。「背筋が凍る」と語った桃原優渡名喜村長の憤りを、米軍は理解しているのか
▼コンテナを落としたヘリを含め、米軍機は墜落や不時着、騒音と訓練中に多くのトラブルを起こす。有機フッ素化合物を含む汚染水を基地外に放出する考えも表明した。やりたい放題の米軍に県民は何度も改善を求めたが、聞く耳を持たない
▼SNSで優しい笑顔を見せながら、実際は県民の日常や命を脅かす。そんな米軍が居座る状況は小説よりも恐ろしい。身勝手な隣人の退去を望む県民の思いは強い。その願いは、いつになればかなうのか。