<金口木舌>馬は帰ってきたか


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 那覇市大名にある馬場跡地「平良真地(てーらまーじ)」の近くに顕彰碑ができたと聞き、現地を訪ねた。那覇市制100年を記念し、県内の空手・古武道の関係者が取り組んだ。今にも駆け出しそうな馬の銅像である

▼台座には「帰馬放牛」の文字。戦争で使った馬や牛を野に帰し、放つことを意味する。戦争の終わりと平和の訪れを例えた四字熟語で、再び戦争をしないという誓いもこもる。この地にふさわしい言葉だ
▼「平良真地」は琉球王国の馬場の一つだった。「琉球処分」のあと競馬は途絶え、1920年代に復活したものの、41年の日米開戦の影響で競馬は中止となる。戦争が庶民の楽しみを奪ったのである
▼周囲の松は日本軍の陣地構築のために切り倒され、戦後は住宅地となる。県内各地の馬場で続いていた琉球競馬ウマハラシーの伝統も途絶えた。沖縄こどもの国で復活するのは2013年のこと
▼戦後の出発地となったのは豊見城市保栄茂の馬場。地上戦で家を失った住民が一時、馬場に建てられたテント小屋で暮らしていたという。普天間にあった馬場は米軍に接収され飛行場に。今も返ってこない
▼45年9月7日、現在の沖縄市森根で日米両軍が降伏文書に調印した。それから76年。戦争の終わりに安堵(あんど)し、平和を喜ぶ「帰馬放牛」を私たちはどれほど実感できただろうか。馬の銅像を前にして、しばし考える。