<金口木舌>前を向く葦


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 自然の中で弱い存在でも人間は思考することができる。その貴さを哲学者パスカルは「考える葦(あし)」と表現した。弱い存在であっても、鍛錬や工夫でかくも可能性を追求できると示した大会だった

▼東京パラリンピックが閉幕した。上与那原寛和選手の二つの銅を含め、日本勢のメダルラッシュだった。表彰台には届かなくとも喜納翼選手の7位入賞など奮闘があった
▼ガイドランナーや距離を伝えるコーラー、タッパーなど補助者の存在も特徴的だ。「支えがあってこそ」とメダリストの感謝に実感がこもった。協力し合って限界に挑み、記録も超えられることを示した
▼実況の解説者が言葉に詰まる場面が何度もあった。競技者の努力を知っているからだろう。競技に詳しくなくても心を動かされた。努力や鍛錬に共感し、機微に感じ入る私たちの心向きに改めて気付かされたようでもある
▼「しなやかさ」と訳される「レジリエンス」を国際パラリンピック委員会は東京大会のテーマに掲げた。コロナ禍の逆境に選手が粘り強く立ち向かってきたことを指す。強風にも折れない葦の強さ、ここにあり
▼感動を与えてくれたパラリンピアンは願う。パラ競技に挑戦したいと思う人が増えるよう。障がいに対する差別がなくなるよう。垣根のない社会の実現だ。これをきっかけに、社会を前に進めることのできる葦でありたい。