<金口木舌>画面の向こう


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 「かまってちゃん」「病名が多くてよかったね」。11年前、インターネット掲示板で不特定多数の相手から激しい中傷にさらされた女性を取材した。精神疾患を抱える女性は悪意に満ちた言葉を投げつけられ、自傷行為などの症状が悪化した

▼ネットは相手の顔が見えない。中傷する人には被害者がどれほど傷ついているのかが分からない。被害者には加害者が誰なのか、何人いるのか、自分のどんな情報を知られているのかも不明だ。恐怖感は何倍にもなるはずだ
▼法務省は刑法の侮辱罪を厳罰化し、懲役刑を導入する方針を固めた。公訴時効は現行の1年から3年に延長する
▼プロレスラーの木村花さんが昨年、ネットで中傷を受けた後に死去した。母親の木村響子さんは厳罰化に関連して「花の望んだ優しい社会に近づけたい」と語った
▼冒頭の女性は中傷から身を守るため、ブログを閉鎖した。主治医や知人ら、生身のつながりに支えられて症状を回復させた。ただ共感し合える仲間もいたネットと距離を取らざるを得ないことに、複雑な表情をしていた
▼厳罰化はもろ刃の剣でもある。弱者を守るならいいが、政権批判まで「侮辱」とされれば憲法で保障される言論、表現の自由が脅かされる。重要なのはネットを使う私たちが、自分の言葉で画面の向こうの相手を殺してしまうこともできると自覚することだ。