<金口木舌>○○様方


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 レンタル業に関わる知人から固定電話のない家が増えていると聞いた。会員登録の電話記入で「携帯でいいか」と聞かれることが多いそうだ。過去にも固定電話のない所帯が少なくなかった時代があった

▼学校の電話連絡網に「○○様方」と括弧書きのある友達がいた。自宅電話がなく、隣近所の固定電話を緊急連絡先として届けていた。30年ほど前のことである
▼その友達の家は長屋のようになっていた。同じ棟には子どもが多く、周辺でよく遊んだ。思い返すと夕方に帰宅する親たちや近所の大人のつながりが濃密だった。電話の貸し借りだけでなく、食材を融通し合う様子も見掛けた。界隈(かいわい)は再開発で一変した。マンションや事業所が立ち並ぶ
▼電話は一家に一台の時期を経て、いまや個々人が持つ。SNSでのやりとりも普通になった。連絡網はなくなり、学校とメールやLINEでやりとりすることも
▼前出の同級生に連絡を取ってみた。隣近所は引っ越して各地に散ったが、親の世代は今も親交があるという。古いつながりを大切に続けてきた模合が休止中なのを残念がった
▼感染に歯止めがかかっても、このまま終息するとは思えない。再流行をにらみ、気の抜けない生活が続く。コミュニケーションを様変わりさせたウイルスも人と人とのつながりまでは奪えまい。集まり旧交を温める。その日は必ずやってくる。