<金口木舌>「浜番」に聞いてみたい


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 琉球王国時代、各地域には浜に打ち上げられるさまざまなものを見回る仕事「浜番」があったという。不審物の警戒以外に、高価で売買されていたクジラの排せつ物「竜涎香(りゅうぜんこう)」を見つけるのも浜番の役目であった

▼クジラの腸内にできる結石のような物で、その塊が浜に流されてくることがあった。香料の原料とされ、王府は報告を怠ると罰則を科すほどだったというから、よほど珍重されていたのだろう。どんな香りだったのか。想像が膨らむ
▼「竜涎香」ではないが、今月8日ごろから、県内各地で大量の軽石が浜辺に漂着したり、海上に浮遊していたりする様子が確認されている。硫黄島近くの海底火山「福徳岡ノ場」の噴火が原因とされる
▼1986年にも同じ海底火山の噴火で、沖縄各地に軽石が流れ着いた。当時を知る琉球大学名誉教授の加藤祐三さんは「軽石に害はなく、5~10年ほどで流されるか沈むかするだろう」と推測する
▼海のかなたには理想郷「ニライカナイ」があり、浜辺には「ゆいむん(寄り物)」が流れ着くとされていた。喜ばれたのは魚介類である。ゆいむんは、人々の暮らしを支えた
▼大量の軽石は民に恵みをもたらすゆいむんではないが、自然のダイナミズムを伝えてくれる。では、美しい砂浜を汚し、生態系への悪影響が懸念される漂着ごみは、私たちに何をもたらすのか。現代に浜番がいるのなら、聞いてみたい。