<金口木舌>色の力


社会
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 人工知能技術(AI)で着色した1940年代の写真を収めた本が昨年話題となった。モノトーンでとらえていた戦時の暮らしも、色が付くと不思議な臨場感を帯びる

▼しょせん後塗りではないかと思っていたが、着色した沖縄戦の写真を見て印象が変わった。白黒では伝わらない戦場の姿が迫ってくる。忘れていた記憶がよみがえった沖縄戦体験者もいるのでは
▼色について気になる記事を読んだ。家族3人を殺害した死刑囚が、拘置所で色鉛筆を使えないのは「表現の自由の侵害で違憲」として、根拠となる法務省訓令の取り消しを求めて訴訟を起こした。国は争う構えだ
▼死刑囚は拘置所で描いた絵を使ったカレンダーや絵はがきを販売し、収益の一部を遺族に渡していた。訓令改正で2月から色つきシャープペンシルの使用に限られたが、細かな濃淡が表現できないという
▼色鉛筆と鉛筆削りの事前購入を訓令改正で禁じたのは、刃による自傷行為の防止が理由らしい。死刑囚は「色鉛筆で絵を描くことは反省を深め、償いを実現するために必要不可欠な行為でした」とコメントしている
▼色の力を借りて死刑囚は罪を償おうとしている。冷酷な犯行に言葉を失うが、反省の手だてを奪ってよいのか。彼の描いた風景画は温かで豊かな色彩に包まれている。モノトーンに覆われた心の風景にも色を塗っているようにも思う。