<金口木舌> 油を売る暇はない


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 江戸時代、髪油を売り歩く商人が、顧客の女性を相手に長々と世間話に興じていた。当時の油は粘性が高く、零(こぼ)さないように客の容器に移すには時間が掛かり間をつなぐためという側面もあったが、転じて「油を売る」は怠けることを指すようになった

▼現代の感覚で考えれば、セールストークで常連客をつかむ油売りは営業職のかがみと言えよう。しかし、高価だった髪油を売り買いするというぜいたくに対するやっかみからか、マイナスの意味で伝わっている
▼新型コロナウイルス感染症の打撃から世界経済が回復する中で、原油価格は高騰を続けている。県内のレギュラーガソリン1リットル当たりの小売価格は、2008年以来13年ぶりに170円を超えた
▼電気料金も上昇を続けている。水力発電が難しい地理的制約などから火力発電の割合が大きい沖縄では、燃料価格の高騰が日々の暮らしを脅かしている
▼新型コロナの感染拡大以前から、国民の生活は決して楽ではなかった。コロナ禍による失業や所得の減少、光熱費や物価の上昇といった個人や企業の努力ではどうしようもない外部要因によって可処分所得が削られ、豊かさを実感できないのが現実だ
▼総選挙で選ばれた465人の衆議院議員には、「油を売る」暇はない。一日も早く庶民の生活負担を軽減できるよう、ひた向きに取り組んでもらいたい。