あるにおいを嗅ぐと感情や記憶が呼び起こされることがある。仏の作家マルセル・プルーストの小説「失われた時を求めて」の一場面から「プルースト効果」と言われる現象だ
▼旧暦12月8日の今日、県内の家庭や店などで立ち込めるのは月桃(サンニン)の香り。祖母とムーチー(鬼餅)を作ったことや、軒下に年の数だけムーチーをつるした幼い頃の記憶がよみがえる
▼記憶や感情と結びつくものと言えば、音楽もそうだ。昨年6月、本紙が「慰霊の日に聴きたい歌」をSNSで募った。HY、モンゴル800、サザンオールスターズなど多くの名曲が挙がる中、圧倒的な支持を集めたのは海勢頭豊さんの「月桃」だった
▼「小学校で合唱した」「この歌があるから、戦争を遠い過去のことではないと思える」。発表から40年。長く歌い続けられているこの曲で、沖縄戦の記憶が受け継がれている
▼家族の健康を祈願する伝統行事「ムーチー」と、忘れてはいけない島の記憶の両方と結びつく月桃。今日はその香りに包まれながら両方に思いをはせたい。