<金口木舌>野球狂にささぐ


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 優れた創作者の想像力は、しばしば現実を予言する。野球漫画に情熱をささげた水島新司さんは、代表作「ドカベン」などで当時は非現実的に思えた事象を描いたが、後に多くが現実となった

▼例えば、160キロの直球を投げる高校生。「球道くん」の中西球道が「大甲子園」で記録した。30年近くたった後、大谷翔平選手が岩手県大会で達成した
▼ドカベンでは、主人公の山田太郎が甲子園で満塁時を含め5打席連続敬遠された。後に松井秀喜さんが5打席連続で敬遠され、是非を巡る論争を巻き起こした
▼沖縄に関しても「予言」が的中した。山田ら明訓高校が3年春の甲子園準決勝で対戦したのは、エース具志拳率いる石垣島高校だった。単行本の発刊は1981年。県内離島勢で初めて八重山商工が甲子園に出場した2006年に先駆けること四半世紀、石垣島の球児が甲子園の土を踏んでいた
▼荒唐無稽とすら思える発想力と、野球への深い理解が共存していたからこそ、読者を魅了したのだろう。冥福を祈りつつ、ページをめくろうと思う。