<金口木舌>市場を彩る「那覇女」


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 「ねえさん、ここにあった着物店は向こうの通りに引っ越したよ」。2月末日に閉場した牧志公設市場衣料部・雑貨部周辺を歩いた。閉場の告知を眺めていると、背後から快活な声が聞こえた

▼声の主は市場向かいで衣装店を営む高齢の女性。市場内と現在の場所で店を開いて約60年になるという。思い出をひとしきり話す女性の表情はどこか寂しげに見えた
▼「でもね」。話は思わぬ方向に転じた。「私は商売人だし、縫製ができるからどんな注文にも対応できる。頑張るよ」。その言葉に、時代の荒波にもまれながら生き抜いてきた「那覇女」の姿を見るような気がした
▼「那覇女」といえば、元毎日新聞記者の古波蔵保好さんが「料理沖縄物語」に「那覇女の名物饅頭」と題した文章を収めている。泰然と構える饅頭店の女性店主と、市場の光景がありありと浮かぶ
▼市場の魅力は、空間を彩るたくましい女性たちの姿だろう。市場は庶民の暮らしを70年間支え幕を閉じた。街は年々変わっても、那覇女の心意気は脈々と受け継がれてほしい。