<金口木舌>継承したい実相


社会
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 「基地があるからまわりの国も警戒して基地をつくる」。1970年、週刊少年ジャンプに連載された漫画「オキナワ」に登場するせりふは今の時代を言い当てている

▼作者は代表作「はだしのゲン」で知られる故中沢啓治さん。広島での原爆体験を基にした「はだしのゲン」は広島市立の小中高校が取り組む「平和教育プログラム」の教材だ。ところが来年度、教材から削除される
▼市教委は2019年度から被爆の実相を理解して確実に継承できるかなどの観点から検証。「浪曲は児童の実態に合わない」「コイを盗む描写は誤解を与える恐れがある」などの意見が上がったという
▼前例を踏襲せず、これまでの内容を見直すことは行政機関としてあるべき姿だ。ただ、掲載部分こそ戦争のおかしさ、不条理など本質を突いてはいないか
▼「オキナワ」「はだしのゲン」に通底するのは、戦争に翻弄(ほんろう)され、原爆、基地から派生する事件・事故で家族を奪われた主人公が反戦を訴え、平和を願う姿だ。不器用に、葛藤しながら。継承したい、戦争にあらがう人々の実相だ。