<金口木舌>規制の正当性はどこ


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 酒の席で口論があった翌朝、「大人の対応」に遭遇したことがある。ばつが悪そうな後輩に「酔っていたので記憶がない。大丈夫だったか」と上司が気遣いで声をかけていた

▼「記憶がない」は権力者がしらを切る時のせりふとしてもおなじみである。国会で問題になっている安倍政権下での放送法の「政治的公平性」を巡る解釈変更のやり取りもだ
▼礒崎陽輔元首相補佐官が総務省に圧力をかけた様子が同省作成の文書に記されていた。当の本人は「会話の詳しい記憶は残っていない」という
▼政府は当時、放送局の番組全体だけでなく、個別の番組だけでも政治的公平性を欠くと判断しうるとし、従来解釈を変えた。製作現場が萎縮したのは想像に難くない
▼官邸内部からは内閣法制局の審議も経ない解釈変更を懸念し、「言論弾圧ではないか」という声もあったと文書は「記録」している。「記憶がない」のは行政プロセスもまずかったからか。放送行政の根幹をなす解釈が記憶がない程度の議論で変更されたのなら、白紙撤回が妥当だろう。