<金口木舌>惨状忘れた「バーベンハイマー」


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 米国の物理学者オッペンハイマーは原爆開発を主導したことから「原爆の父」と呼ばれ、科学者の社会的責任を論じる際、あしき例として挙げられる。一方で戦後は水爆反対の先頭に立ち、公職を追われた

▼そのオッペンハイマーの伝記映画が米国で公開中だ。被爆の実情を知って苦悩し、核軍拡競争を懸念する姿を描くが、広島、長崎の描写はないという
▼バービー人形が題材の映画「バービー」も同日公開。注目の2作を融合した「バーベンハイマー」なる造語が生まれ、SNSで原爆のきのこ雲とバービーの合成画像が出回る。被爆の惨状を知らないが故の現象だ
▼物理学者の藤永茂氏は、著作でオッペンハイマーを貶(おとし)めることで誰が利益を得るのかと問い、無罪証明を手にしたい「私たち人間」だと自答した。「原爆の父」を貶めても、贖罪(しょくざい)に触れる映画を見ても、無罪証明は得られない。私たち人間は核兵器の恐ろしさを忘れず、廃絶への道を歩むしかない
▼きょうは長崎原爆の日。未来永劫(えいごう)、人間が最後に原爆を使った日になることを願う。