<金口木舌>不条理に向き合ってこそ


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 与党政治家の千石宗平が民族派の青年に諭す。米軍機が国会議事堂に墜落したらどうなるか。米軍は包囲し「総理だろうが警備員だろうがまとめて議事堂から追い出しても、警視庁は指をくわえて見ておるしかない」

▼作家の永瀬隼介さんの小説「属国の銃弾」の1シーン。千石のモデルは元総理の田中角栄さんという。米軍の特権を定める日米地位協定を問題視し喝破する。「こりゃあ、独立国じゃなくてアメリカの植民地だろ」
▼沖縄国際大学へのヘリ墜落時の傍若無人ぶりを思い出す。その後、事故現場の捜査ができる指針は示されたが、それも米軍同意の留保付き。不条理も解消されないまま、戦後78年を迎える
▼戦争について考えさせられる8月に麻生太郎自民党副総裁は「戦う覚悟」と物騒なことを言う。台湾有事を念頭に日米台の抑止力に必要とか。戦う覚悟をしてもらいたいのは自らの国に横たわる不条理に対してだ
▼日米地位協定について千石は言う。「わし一人で変えてみせるがの」。小説でのせりふとはいえ、こんな意地はみせられぬか。