<金口木舌>しんがりのリーダー


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 人々の列や順番の最後尾にいて「けが人はいないか」「忘れ物はないか」と目を配る。そんな「しんがりのリーダーシップ」を劇作家平田オリザさんが著書「下り坂をそろそろと下る」で触れている

▼しんがりのリーダーはぐいぐいと人々を引っ張る勇ましさはない。それでも少子化など衰退していく社会で、不安を共にし、周囲を「見て回ってくれるリーダーも求められる」と
▼沖縄市の仲里博市さん(享年75)は、中の町小学校の近くでそろばん塾を営んだ。一方で登下校時の「あいさつ運動」を1990年から校門前で始め、児童を毎日見守り続けてきた
▼「危ないから道路を横切るな」「ここに車を止めるな」。命を脅かす場面では親も子もなく大声で叱った。陰ながら学校の樹木の手入れをし、古紙回収の収益金で楽器を贈った。さりげない優しさで地域から親しまれ、風貌から「ひげじい」の愛称がついた
▼亡くなったのは5日。別れを惜しむ児童ら多くの人が校門前で棺を見送り、手を合わせた。生前「いつも子どもたちから元気をもらっている。ここにいることが幸せなんだ」とPTA事務局の柳原すえ子さん(54)に話した
▼ランドセル姿の児童がお母さんになった姿に目を細め、子どもエイサーから青年エイサーへと成長するのを喜んだ27年。人々を優しさで包み続け「しんがりのリーダー」を務め上げた。