<金口木舌>金治郎精神は今


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 安木屋が那覇の平和通りにあったころ、店舗入り口に二宮金次郎の銅像があった。薪(まき)を背負い、本を読む偉人の像は店のシンボルであった。設置は1958年5月。当時の本紙に広告が出ている

▼小学生のころ、安木屋のおかげで偉人の名を知った。平和通りを歩くたび銅像を見上げた。勤勉、勤労を地で行く姿に気を引き締めた人もいたのではないか。当方はちょっと苦手だった。あんな風にはなれないな、と
▼文部省唱歌「二宮金次郎」は「骨身を惜しまず仕事をはげみ 夜なべ済まして手習い読書」とある。日本の近代化を支えた勤労精神ではあるが、前時代的だと片付ける向きもあろう。これだけでは人はついてこない。安木屋はどうだったか
▼従業員の残業代を支払わず、労働基準法違反容疑で社長と店長が逮捕された。那覇労働基準監督署の5度の行政指導に従わなかった責任が厳しく問われている。老舗文房具店を揺るがす逮捕劇を聞き、あの銅像が頭に浮かんだ
▼店に据えた銅像が伝える刻苦勉励の金次郎精神を社員に強要したのではなかろう。ただ、働き方に前時代の名残があったのではないか
▼安木屋の企業理念には「全従業員の豊かさを追求する」とある。そこに偽りはなかったはずだが、実現の道筋をつけられなかったのだろう。それは沖縄で働く者や企業が等しく向き合う難題のようにも思う。