<金口木舌>癒えない傷痕


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 「人間でありながら、人間として認められていなかった」。ハンセン病元患者の平良仁雄さん(78)は、そう話した。らい予防法によって社会から隔離され、人権を奪われた

▼名護市にある国立療養所「沖縄愛楽園」。ボランティアガイドとして、施設を訪れる人に自らの体験やハンセン病の歴史を伝えている。退所者の大半は、差別と偏見を恐れ、元患者であることを公にしていない
▼平良さんは9歳で発症。久米島の親元から離され、愛楽園に入所させられた。数年後、父親と再会したが、面会室には2人を隔てるガラスの壁があった。親子は手を握ることもできなかった
▼らい予防法は1996年に廃止されるまで約90年続いた。妊娠した女性の強制堕胎、結婚する男性の断種手術も行われた。平良さんは「病気を治すための法律ではなく、国策に不必要な患者を排除するためのものだった」と断じる
▼8月、入所者が主催した施設の夏まつり。支援者や地域の人でにぎわう会場で、記者に語る言葉が重く響いた。「らい予防法は廃止になったが、痛めつけられた傷は癒やされていない」「偏見や差別は根強く残っている」
▼身を潜めるように暮らす回復者にとって、らい病予防法はまだ生き続けていると、平良さんは指摘する。無知と無関心が人権侵害を放置してきたことを社会全体で反省する必要がある。