<金口木舌>津波選手、飛躍に期待


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 陸上男子100メートルで新時代の幕が開いた。21歳の桐生祥秀選手が日本人で初めて10秒の壁を突破した。電光掲示板の「9秒98」に興奮する会場の様子はテレビからも伝わった

▼県出身のアスリートも競技中にもかかわらず拳を握った。男子走り幅跳びの津波響樹選手(那覇西高出)だ。競技を一時中断し、レースを見詰めた。東洋大の二つ上の先輩が目の前で輝いた
▼憧れの選手の勇姿に、抑えきれないほど気持ちは高揚したという。高ぶりを闘争心に変え、臨んだ5回目の跳躍。「無心で踏み切った」ジャンプは8メートル09と10年ぶりに大会記録を塗り替えた
▼それだけではない。自らが持つ県記録も、わずか3週間で30センチ以上更新した。168センチ、65キロと小柄な津波選手が県勢の壁だった大台を超え、世界を見据える8メートルジャンパーに仲間入りした
▼100メートル10秒47の俊足が津波選手を支える。昨年10月の日本ジュニア陸上では本業の走り幅跳びの5位を上回り、100メートルは4位に入賞した。「スピードは負ける気がしない」との言葉に自信がみなぎる
▼国内トップ級が集う日本学生対校を新記録で制した意義は大きい。それでも、今回の大ジャンプを一度リセットするという津波選手に気負いはない。日本記録まではあと16センチ。一級の助走スピードに課題の技術力が伴った時、小さなジャンパーの軌跡は大きく輝くだろう。