<金口木舌>自分を律して楽しく過ごす


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 ドイツ文学者の池内紀さん(76)が今夏、エッセー「すごいトシヨリBOOK」を出した。副題に「トシをとると楽しみが増える」とある

▼「楽しく老いる」ため必要なこととして、日常にさまざまなルール決めをする点がユニークだ。惰性になりがちな日常を「再生する」として、多くの趣味を持つことも提案する
▼敬老の日の紙面で紹介した沖縄市の松川光吉さん(80)は64歳の時、30年ぶりにサックスを手にした。今では時折、ステージで演奏する。時間をたっぷり練習に使える、というのはさもしい勘ぐりで、奥さんの介護の合間を見ながらだという
▼7年前に介護生活を始めたころ、一人で世話ができるのか深い迷いの中にいた。ある時「自分がやるしかないと決意してからは楽になった」。これも一つのルールづくりだろう。デイケアやショートステイを活用し、自分の時間も確保している
▼読者から「楽器を始める年齢に制限は」との質問があり、松川さんに聞いてみた。「早く始めるに越したことはない」との断り付きだが「大事なのはやりたいとの意思。好きであればいくつからでもいい」とのこと
▼峻厳(しゅんげん)な決意で自らを律しつつ、素直な心を持って楽しく生きる。表現は軽薄だが、その姿はやはりかっこいい。リタイアした人たちにとってもそうだろうが、若い世代にこそ、さまざまなヒントを指し示してくれる。