<金口木舌>愛を言葉に


この記事を書いた人 琉球新報社

 胸に抱く思いはあっても、普段はなかなか口にできない言葉がある。恋人や夫、妻への愛、家族への感謝の気持ちは、そんな言葉の一つだろう

▼大切な人への思いを声にして叫ぼうというユニークなイベントが先日、恩納村であった。参加者は「おんなの駅」前の内海で、対岸の相手に向かって「ずっと一緒にいよう」「結婚して」などと叫んだ
▼写真だけの結婚式、フォトウエディングを当日、村内で挙げたカップルも参加した。夫は苦労を掛けた妻に感謝の気持ちを大声で伝えた。「パパ大好き。ゲーム買って」と、かわいらしい声を上げた6歳児もいた
▼恩納村は琉球王府時代を代表する女流歌人の一人、恩納ナビーが生まれ育った土地だ。ナビーは情熱的で大胆な琉歌を詠んだことで知られる。遊郭に売られ、生の悲しみなどを詠んだ吉屋チルーと対照的な存在だ
▼「恩納嶽あがた 里が生まり島 森も押しのけて こがたなさな」。恩納岳の向こうに愛する人の故郷があり、山さえ押しのけて、こちらに引き寄せたいというのが歌意。ナビーが詠んだ激しい情念の恋愛歌だ
▼愛を叫ぶイベントは、恩納村がナビーゆかりの地であることにちなんだもの。村民が愛する約300年前の歌人に向け、長浜善巳村長は「村民を見守ってくれてありがとう」と叫んだ。たまには愛や感謝の心を言葉にするのもいいものだ。