<金口木舌>スターの引き際


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 安室奈美恵さんの突然の引退表明から1カ月。「ショックから立ち直れない」「安室ちゃんの曲ばかり聴いている」。ファンの間ではいまだ、安室さんの話題で持ちきりだ

▼厳しい芸能界で、子育てを優先させながらトップを走り続ける生き方は、性別や世代、国境を超えて共感を呼んだ。ストイックな姿勢も魅力だ。ライブでは合間に休憩を入れず、歌い踊るスタイルを貫いた
▼山口百恵さんもそうだが、全盛期に引退したスターは、ファンの記憶の中にいつまでもそのままの姿をとどめる。一方、力の限り立ち上がれなくなるまで戦うという選択もある
▼将棋の現役最高齢記録を持ち、6月に引退した加藤一二三・九段は、規定によって引退せざるを得なくなるまで戦い、50歳以上も年下の棋士に敗れて現役最後の対局を終えた。「名人」の称号を持つ棋士としては極めて異例だ
▼「ひふみん」と呼ばれる親しみやすい人柄とは裏腹に、勝利への執念はすさまじかった。歴代2位の1324勝を挙げ、歴代最多の1180敗を喫した。戦わなければ、負けることもない
▼「魂を燃やして、色あせない名局を指せたことが誇り」という言葉に生きざまが表れる。満開の花を咲かせた時に身を引くのか、限界まで勝負し続けるのか。スターの引き際はどちらにしても魅力的で、生き方について考えさせてくれる。