<金口木舌>座間市の事件の背景にある自殺願望


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 テレビや映画での殺人事件では、たいてい人間関係のもつれや金銭トラブルが背景にある。しかし現実社会の殺人の理由は心の闇に覆われ、理解不能である

▼神奈川県座間市の男の自宅から9人の遺体が発見された。自殺願望を書き込む会員制交流サイト(SNS)でつながったとみられる。容疑者の動機は判然としない。SNSがなければ殺されなかったかもしれないが、逮捕の端緒となったのは皮肉にもSNSだった
▼今やインターネットは生活に欠かせない。身近な家族に話せないことも、SNSに載せて共感を得たり、勇気をもらったりすることもある。だがどんなに適切な利用方法を教えたとしても、ネット空間では悪いことと分かっていても共感する人同士が結び付きやすい危うさがある
▼より深刻なのは、今の社会で「死にたい」と思う人が少なからずいることだ。病気や貧困、借金苦なのか。「誰にも必要とされていない」という孤立感なのか
▼県内で昨年、自殺で亡くなったのは男性207人、女性54人だった。週に5日、ほぼ毎日誰か1人が自ら死を選んでいる。特に中高年男性は深刻だ
▼誰でも子どもの頃は夢を抱き、自分の可能性を信じられる時期があったはずだ。いつ頃から悲観的になるのだろう。「希望が持てる社会を」。衆院選で各党首が訴えていた言葉を、スローガンで終わらせてはいけない。