<金口木舌>1300の証言集めた男


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 生涯をかけて1300人余の被爆者の証言を集めた人がいる。長崎県出身の故・伊藤明彦さんがその人。カセットテープやCDなどに編集し、全国547の個人・団体に寄贈した

▼8歳の時に自身も入市被爆した。長崎放送に入社後、被爆証言を伝えるラジオ番組を企画・担当したが、他部署に移動となったので退職した。その後、アルバイトをしながら沖縄など21都道府県を巡り、被爆者と会った
▼長い間、結婚などでの差別を恐れ、被爆体験を隠さざるを得ない人も多かった。千人から証言を断られたが「メディアに関わった者として記録を残さなくては」と、こつこつと取材を重ねた
▼長崎県出身の古川義久さん(63)は2006年、当時住んでいた埼玉県で新聞記事を読み、見ず知らずの伊藤さんの生き方に興味を持った。ネットで音源を公開することを提案し、サイト「被爆者の声」を設立した
▼音声を文字にしてサイトに表示しようと思ったが、膨大な文字起こしの作業が発生する。考えた末、サイトの来訪者に協力を依頼すると文字がどんどん打ち込まれ、短期間で作業が完了した
▼伊藤さんは「これからは動画の時代」と349人の証言映像を残した。古川さんは故郷で、その公開に向けてNPO法人を設立し、理事長を務めている。一人の情熱が多くの人を動かし、被爆者の声を世界に届けている。