<金口木舌>終わりの始まり


この記事を書いた人 琉球新報社

 「核兵器の終わりの始まり」。広島で被爆したカナダ在住のサーロー節子さん(85)の言葉が印象的だった。7月、核兵器禁止条約が国連で採択された時に語った

▼賛成122、反対1、棄権1。「ヒバクシャの受け入れ難い苦しみに留意する」と明記した。初めて核兵器禁止を明文化した国際条約である。しかし、米国の「核の傘」に頼る日本は参加していない
▼原爆投下の時、サーロー=当時中村=さんは13歳。建物の窓全体が青白い閃光(せんこう)でいっぱいになり、気付くと血まみれでがれきの下敷きになっていた。「すべてが一瞬にして消え去った悪夢の世界」を生き延びた
▼核兵器禁止条約が採択された時「この日を70年間待っていた」と喜んだ。被爆体験を語る活動を続け、ことしノーベル平和賞に決まった核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)で中心的な役割も果たす
▼日本は国連の核兵器廃絶決議を1994年から毎年主導してきた。しかし、核兵器禁止条約に反対する姿勢との矛盾は明らかだ。米国追従の対応は、沖縄の基地問題への姿勢とも重なる
▼サーローさんは、被爆者の惨禍を思い起こし、条約に署名してほしいと日本に呼び掛ける。核兵器の「終わり」を信じる声に、唯一の被爆国が応えるのはいつの日か。ICANは訴える。「緊張が高まる今こそ、核兵器をなくすときだ」