<金口木舌>言葉は自由か


この記事を書いた人 琉球新報社

 「広辞苑」の第7版が来年1月に発刊される。どのような新語が掲載されるのかニュースになる。「国民的辞書」への注目度は高い。版元の岩波書店のキャッチコピーは「ことばは、自由だ。」

▼今回、採用される新語の中に「安全神話」がある。東日本大震災と福島第1原発事故の後、連日耳にした言葉だ。ビットコイン、ブラック企業も10年前にはなかった。辞書は時代を映し出す鏡といえそう
▼沖縄に関する記述にもそのことを感じる。1955年の初版は「沖縄」を「もと我国の県名」、「沖縄島」を「太平洋戦争最後の激戦地。現在アメリカ民政下にあり、軍事基地」と記述した。発刊の3年前、日本は独立し、沖縄の施政権は切り離された
▼2008年の第6版では「てえげえ」が載り、話題になった。第7版では世界遺産に登録された識名園や今帰仁城が載るという。辞書を通じて沖縄文化の特異性を感じることができる
▼沖縄返還密約やオスプレイも新たに掲載されることになった。日米外交の道具として扱われ、日米安保の負担を背負わされる戦後沖縄の歴史と現在を二つの言葉に見る。新版の読者は何を読み取るだろうか
▼米統治下の沖縄は言論、出版が制限された。そして今、心ない誹謗(ひぼう)中傷が投げ付けられる。新版には「ヘイトスピーチ」は載るだろうか。沖縄にとっての言葉の自由を考えたい。