<金口木舌>長い道


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 自らの人生をキャンバスに見いだす画家は他にもいよう。彼は文字通りキャンバスの中に人生を見つめ、ゆっくりと、しかし懸命に歩んだ。「かたつむり画家」を名乗った仲宗根正満さんが先日、61年の人生を終えた

▼幼少時の高熱で脳性まひを患い、重い障がいが残った。その不自由な体で幼少時から絵を好み、絵画コンクールに入選した。1982年には初の個展を開いた。「かたつむり画家」の誕生だ
▼詩も書いた。「長い道/これがぼくの人生なのかもしれない/人はみんな心の中にキャンバスを持ち/自分自身の人生の道を描く」とつづった作品「キャンバス」で自らの人生を見据えている
▼22年前、創作の様子を拝見した。立つことができず、キャンバス全体を見渡すことができない。天井に据えた鏡で全体像を確認しながら絵筆を握った。澄んだ瞳が忘れ難い。鏡に映ったキャンバスに、自身の道を見つめていたのだろうか
▼仲宗根さんは一人ではなかった。後に沖縄市長になる父の正和さんら家族や仲間たちがいた。同伴者の存在は仲宗根さんの歩みを豊かなものにした
▼「かたつむり」という詩で「速い時の流れの中でも/流されずに/かたつむりのように/ゆっくりとした心で/私は歩くことを決めた」と記した。そのように生き、希望の光をともした仲宗根さんの「長い道」に心から拍手を贈りたい。