<金口木舌>文化のともしび


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 唐代の詩人、韓愈(かんゆ)は秋の夜長について「灯火親しむべき候」と記し、明かりの下での読書を推奨した。芸術の秋ともされ、さまざまな文化行事がめじろ押しだ

▼いくつかの市町村の芸術祭、文化祭の会場を訪ねた。さまざまな分野の作品が並び、技芸の成果を発表する市民らの晴れ晴れとした表情があった。来場者が熱心に観賞しているのを見ていて、画家の故宮里友三さんの話を思い出した
▼北谷町議や町収入役などを務め、創作が難しい時期があった。思い悩んで師の城間喜宏さんに相談すると「その意識が大切なんだ」と励まされた。いつかまた描き始めるのだと思い続けることこそ尊いという助言だった
▼生活や仕事に追われ、趣味どころではないという人もいる。のちに県文化協会の会長に就いた宮里さんは「それでも、いつかはやりたいとの思いを温めていてほしい」と語った。それは心の豊かさへの欲求であり、日々の生活を大切にすることにもなるのだと
▼哲学者カントは「感嘆してもしきれぬもの」として「天上の星の輝きと我が心の内なる道徳律」を挙げた。自然の法則と人間の認識、理性の関係について示した言葉とされる
▼文化芸術への憧れと追求する心も星のきらめきに似て美しい。創作、芸事に励み、発表し続ける人々の営みが、新たに市民らを活動にいざない、文化のともしびが引き継がれていく。