<金口木舌>暮らしの心


この記事を書いた人 琉球新報社

 先日、壺屋焼のお椀(わん)を二つ購入した。しまくとぅばで「まかい」と呼ぶもので、手のひらに収まる小ぶりの椀を選んだ。程よい重さ、味わいのある絵柄。けっこう気に入っている

▼金城次郎さんら著名な陶芸家が残した作品を前にするとため息が出る。でも、食卓にある椀も負けてはいない。生活に潤いをもたらしてくれる。何より、食事がおいしくなった気がする
▼庶民の暮らしから生まれた日用品の美を称える「民芸運動」の中心人物だった柳宗悦は壺屋焼の魅力を知らしめた一人だ。そこに民芸の粋を見いだしたのだろう。沖縄の陶芸や壺屋焼の魅力についても論じた
▼1939年の文章でまかいにも触れ「此の『まかい』は今迄沖縄人の最も多く使った茶碗であるが、近頃需要が減じたのは甚だ残念である。形が伝統的で甚だいゝ」と記した。手にした椀をめでる柳を想像する
▼壺屋は沖縄戦で比較的被害が少なかった地域だった。45年11月、陶工が先遣隊として壺屋に入り、生産活動を再開する。復活した壺屋焼は今も多くの県民に親しまれている。今年の壺屋陶器まつりも賑(にぎ)わった
▼戦災をくぐり抜けた壺屋焼の健在に、柳は「どうしてそんな底力を持ってゐるのか」と問い「沖縄人の暮しの心そのものに由来する所があるのである」と説いた。日用品のまかいにも暮らしの心が生きているのだろう。