<金口木舌>海外子弟研修生の笑顔


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 原発事故で避難を続ける福島県の住民らが東電や国を相手に損害賠償を求めた訴訟は、全国で約30件に上る。ことし3地裁で判決があった

▼責任認定や救済範囲は異なるが、いずれも賠償を認めた。共通するのは平穏生活権の侵害を重く見たこと。千葉地裁は「ふるさと喪失」を精神的損害の賠償対象だと初めて明確に示した
▼作家の柳田邦男さんは毎日新聞で「人格形成の根っこ」である故郷(ふるさと)をかけがえのないものとした一審の先進性を評価した。一方、社会の情報技術化と人工知能化の陰で「故郷への価値観が希薄化していく」とも指摘した
▼室生犀星はふるさとを「遠きにありて」と書いた。海外移住者の子弟研修生として北中城村を訪れた若者にとっては「訪れたからこそ、より思うもの」だったに違いない。3カ月間の修了式が11月末にあった
▼ブラジルの県系3世、大城タケオ・ジエゴさんは「ずっと笑顔だった」と父祖の地の文化を学んだ喜びを表現した。ペルーの4世、大城カバジェロ・カルロス・アウグストさんは「ウチナーンチュとして生きた」と忘れられない体験に感謝した
▼地元の文化に触れて輝く研修生の表情は村民の心を打つ。縁戚ではなくても研修生を受け入れる家庭を支援する組織を村民有志が立ち上げた。地道な取り組みが沖縄と海外を結ぶ。ひいては故郷を大切にする心を育てることにもつながる。