<金口木舌>カザルスとマイスキー


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 チェロ奏者のパブロ・カザルス氏は1971年、国連でカタルーニャ地方の民謡「鳥の歌」を演奏した。「鳥はピース(平和)ピース…と鳴くのです」とスピーチした。当時94歳。国連平和賞が授与された

▼当方が「鳥の歌」の生演奏を初めて聞いたのは2000年1月、ミッシャ・マイスキー氏のリサイタルだった。そのマイスキー氏の演奏会が先日、約18年ぶりに県内で開かれた。曲目はバッハの無伴奏チェロ組曲
▼この全曲は長い間、日の目を見ず、カザルス氏が13歳の時に楽譜を見いだしたとされる。今やチェロ奏者には欠かせない曲目である
▼マイスキー氏のバッハは、無伴奏であることを忘れさせるほどチェロ一つで豊かな世界観を見せた。彼はバッハの曲について「時空をも超えるユニバーサルな曲」と語る
▼カザルス氏は当時のスペインの独裁政権に反発しフランスに亡命、後にプエルトリコに移り住んだ。旧ソ連ラトビア生まれのマイスキー氏も、当局から迫害を受けた経験があり、後にイスラエルに移住した
▼偉大なチェロ奏者の演奏と曲の背景に思いをはせた。平和でなければ音楽を楽しむことは難しいが、音楽を通して平和への思いを強めることはできる。市民が強権政治に振り回される現状は、沖縄だけではない。しかし、音楽が心のよりどころになることを、2人の演奏は教えてくれる。