<金口木舌>今年、どう生きたか


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 きょう仕事納めの方々は多いに違いない。年の暮れを実感しつつ、この1年を振り返る節目である。嫌なことは忘年会で流すにしても、記憶に刻んでおきたいこともある

▼亡くなった方々の名前はその一つ。県内では今年、郷土に貢献した多くの方々を失った。政界では大田昌秀氏、上原康助氏、経済界は呉屋秀信氏、古波津清昇氏、他にも多くの功労者が世を去った
▼この方々の輝かしい業績は多様な媒体に記録され、語り継がれていくだろう。一方で、なかなか語られない裏面史を生きた人々の経験もまた、時代を映す鏡として貴重である
▼そんな人々の人生を記録に残す試みと出合った。真喜志きさ子さんは、6歳で辻遊郭に身売りされた母の経験などを著書「母の問わず語り」につづった。母は晩年まで自身の経験を語らなかったという
▼他にも遊女だった人々が重い口を開いている。身売りされたことで食糧や移民の旅費など家族を助けたという証言だ。朗読会で真喜志さんは「沖縄にもそんな貧しい時代があったことを忘れないでほしい」と語った
▼真喜志さんは母の経験を負の遺産としてではなく、どう生きたか刻んだ。その記録は「生きる」とはどういうことか、多くを教えてくれる。年が暮れるこの時に、世を去った方々に思いをはせ、自分は今年、どう生きたかを考えてみたい。新年への新たな誓いのためにも。