<金口木舌>思い込みという壁


この記事を書いた人 琉球新報社

 「1マイル4分の壁」という有名な話がある。かつて、人類が1マイル(約1600メートル)を4分で走るのは不可能だと思われていた。1954年、1人の選手がそれを破った

▼すると、その後1年間で23人の選手が1マイル4分を切った。400メートル障害日本記録保持者の為末大さんは「4分の壁」は肉体の限界ではなく、人が思い込みによってつくり上げた限界だと説明する
▼多くの選手が、実際には記録を破る力がありながら「4分の壁」という常識にとらわれ、力を出せなかった。他の選手が限界を超えるのを見て「自分もできるかも」という心理が働き、壁は限界でなくなったというのだ
▼昨年9月、日本人の「100メートル10秒の壁」を、桐生祥秀選手が破った。為末さんによると「10秒の壁」の理由は「単純にキリがいいから」。分かりやすく共通の目標となることで聖域化され、高い壁となっていた
▼県民の悲願だった甲子園優勝を、沖縄尚学が果たしたのは1999年。ライバルの快挙を見た県内の選手たちから「自分たちにもできる」という声が上がったのが、印象的だった。県勢はその後11年間で、3度も頂点に立った
▼目標を立てても、実際にやり遂げるのは大変である。だが自分の思い込みが限界をつくっているのなら、壁を取り払えるかどうかも自分次第だ。新しい年、軽やかな気持ちで何かに挑戦してみませんか。