<金口木舌>広辞苑に載った2人


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 「天国の貘さん、朗報だよ」とお知らせしたくなる。先週発売された「広辞苑」の第7版に山之口貘さんの名が載った。この世を去って55年。沖縄の放浪詩人が「国民的辞書」の項目に加わった

▼解説はこう。「詩人。沖縄生れ。本名、山口重三郎。哀愁とユーモアをたたえ風刺に富んだ詩を書いた」。簡素にして明解。写真で見る貘さんの顔が浮かぶ。二文字加えたくなる。貘さんのキーワードの「貧乏」だ
▼もう一人、沖縄から著名人が新たに加わった。屋良朝苗さんだ。「教育者・政治家」の屋良さんは「五二年沖縄教職員会を結成し、会長として日本復帰運動を推進」とある
▼気付いたことがある。貘さんは1903年、屋良さんは02年の生まれ。2人は同時代の人であった。生きた世界は全く異なるが、沖縄を見つめ、背負い続けることで、沖縄の戦前戦後史に名をとどめている
▼貘さんは沖縄の差別と向き合い、代表作「会話」を生んだ。屋良さんの眉間のしわは沖縄の苦悩を象徴した。貘さんは東京で沖縄の日本復帰を待ち望み、屋良さんは復帰運動を引っ張った
▼その復帰はどうだったか。「広辞苑」は「沖縄」の項目で「米軍基地の存続など問題を残し施政権は返還」と記す。76年の版から、ほぼ変わらぬ解説を引き継いでいる。沖縄の現状が変わっていないからであろう。2人の嘆息が聞こえてきそうだ。