<金口木舌>お母さんも甘えて


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 「自分の子どもを育てているのにイクメンって、訳分からない」-。あるお笑い芸人が、「イクメン」ぶりを自慢する芸能人を皮肉った発言が話題になっている

▼女性が育児をするのは当たり前、男性は育児を手伝うだけでもてはやされている。「イクメン」という言葉が存在していること自体、男性の育児参加が浸透していない現状を表している
▼一方、育児中の女性が感じる重圧は相当なものだ。赤ちゃんに母乳をあげるのも寝かしつけるのも、初めからうまくできるものではないと分かっているのに、「完璧な母親像」に押しつぶされそうになりがちだ
▼本年度、本紙主催の短編小説賞に輝いた「火傷の痕と子守唄」は、出産直後の母親の苦悩を描く。幼いころ母親から虐待された主人公が、母のようにはなりたくないと思うあまりに自らを追い詰める
▼きついのに意地を張って母子同室を希望し、寝不足になる。ほかの母親はきちんとしていて、自分だけ「母親失格」と言われている気がする。作者の石川みもりさんは子育て真っ最中。経験者ならではの描写が随所にちりばめられている
▼主人公は、看護師長の「大丈夫よ」という言葉と家族や友達の存在に救われ、一人で子育てしていた母の孤独感に思いを巡らせる。頑張り屋さんのお母さんを「一人じゃない。甘えていいんだよ」と優しく包み込む作品だ。