<金口木舌>八重岳の桜


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 「この時期、こんなに咲いているとは」。本部町の八重岳を観光で訪れた夫婦が、咲き誇るヒカンザクラに感嘆の声を上げた。20日始まった桜まつりは「日本一早咲き」がキャッチフレーズだ

▼山頂付近は七分咲き。全体では六分咲きだが、満開に近い木もある。濃淡さまざまなピンク色の花。その間をメジロやミツバチが飛び交う。町によると、1月下旬ごろが開花のピークで、2月初めごろまで楽しめるという
▼八重岳の桜は約7千本。1963年に一部を残して米軍施設が返還された際、町が沿道に植えたことが、並木の始まりとなった。その後も町内各団体などが植樹を続けてきた
▼戦前もこの山に桜はあったようだ。「国頭の 山の桜の 緋に咲きて さびしき春も 深みゆくなり」。沖縄と関わりの深い国文学者の折口信夫(1887~1953)が八重岳の桜を詠んだ歌だ。35年12月、民俗調査のため沖縄を訪れた
▼沖縄の桜は中国福建省の原産で台湾を経由して琉球王朝時代に渡来、やがて広がり野生化したものという。折口は与那覇岳で野生の桜を見たくて首里で越年、1月に八重岳で桜を見た(小川和佑著「桜と日本人」=新潮選書)
▼緑の山と桜が織りなす風景は、やんばるらしい。折口が見たかったのも、そんな沖縄の風景だろうか。27日には名護さくら祭り、今帰仁グスク桜まつりも始まる。