<金口木舌>生き残るため


この記事を書いた人 琉球新報社

 まだ夜が明けない午前5時46分。どしゃ降りの雨で足元は泥水でぬかるんだ。しかし大勢の人々は意に介さず、竹灯籠の灯が雨にぬれないように手を添え、消えてもまた、ともしていた

▼今月17日、神戸市中央区の東遊園地を訪れた。23年前のこの瞬間、巨大地震が阪神・淡路を襲った。犠牲者6434人を追悼する遺族らが鎮魂の祈りをささげた
▼会場内には、犠牲者の名前を刻銘した「慰霊と復興のモニュメント」がある。先月、その掲示板に縦約50センチの大きさで「ばか」「あほ」などと落書きされているのが見つかった。鋭利な物で傷つけたとみられる
▼追悼式は震災の犠牲を忘れないために市民の手で毎年、自主的に催されている。実行委員は事件を機に、語り継ぐ意義や仕組みを話し合った。10歳の時に被災した、実行委員長の藤本真一さん(33)は「ここがどういう場所で、どんな目的で建てられたのか、分からない世代が増えている」と語る
▼震災を体験していない人の割合は神戸で4割に上るという。今回の追悼式は、何とか次世代につなぎたいとの思いを込め、竹灯籠でかたどった文字は「伝」
▼落書きは、昨年9月に読谷村で起きたチビチリガマ損壊事件を思い出させた。なぜ語り継ぐのか-。神戸の実行委員が話し合いに使った白板には「生き残るため」の文字があった。沖縄戦体験の風化と闘う沖縄の今と重なって見えた。