<金口木舌>やってみる心


この記事を書いた人 琉球新報社

 くわえた絵筆で、ゆっくり、少しずつ色を重ねていく。四肢まひの障がいがある名護市の鉢嶺克治さん(46)は、自由に動かない腕の代わりに、口を使って水彩画を描く

▼20歳の時、バイクで転倒し、頸椎(けいつい)を損傷した。事故への後悔で涙を流す夜もあった。だが、同じように障がいのある星野富弘さんの作品を見て希望が湧いた。口で描いたものだった。「自分にもできるかも」と、やってみた
▼ひんぷんガジュマル、ヒカンザクラ、沖縄そば-。題材は見慣れた名護の風物が多い。描いて楽しいと思うものを選ぶと、そうなった。中でも食べ物は好きな題材だ。一筆一筆塗り、1枚を描くのに約1カ月かかる
▼2007年から毎年カレンダーを作成している。その原画などこれまでの作品約90点を集め、4日まで浦添市で個展を開いた。生活介護支援事業所の仲間が運営を支えてくれた
▼展示会に込めたのは感謝の心。「これだけできるようになったことを家族や周りに伝えたかった」。そして自分が描いた絵を見た人たちに「何かを感じてもらえたら」と考えた
▼障がい者を表す「ディスエイブルド」という英語がある。できるという意味の単語に否定を表す言葉が付く。だが、鉢嶺さんは諦めない。「できることを探し、挑戦することが大切。まずはやってみることだ」。伝えたい、もう一つのメッセージだ。